新着情報とお知らせ
『繁忙期のタイヤ屋さん』で四苦八苦の十句
2023-10-03
※俳句のわかる方、添削を希望します。
秋日向迷子のナット光りけり
【季語】 秋日向(あきひなた)
タイヤ脱着の際、取り外すナット。
たまにコロコロ転がって見失い、這いつくばって探し回ったりします。
そのナットにあたたかな秋の日差しが当たる。
「見ーつけた」っていう句です。
律の風ピットで弾む全音符
【季語】 律の風(りちのかぜ)
繁忙期のピット室内は非常に活気に満ち、音で溢れています。
金属音、エアーの音、作業員の声。
一陣の秋風が吹きこむ中、ぽーんと弾むタイヤ。
全音符の黒丸をタイヤに見立ててみました。
五芒星描くレンチの冷やかに
【季語】 冷やか
一筆書きで描く星を「五芒星(ごぼうせい)」といいますが、5穴のナットはまさに五芒星を描くように対角で締め付けていきます。
繁忙期は開店から閉店まで、何台も何回も、何本も何遍も五芒星を描きます。
そして、五芒星を描きながらナットを締める「工具」。
合金の材質のひんやりとした感触に”冷やか”という季語が結びつきました。
俳句は五七五の十七音、有季定型、わかりやすい言葉でシンプルに。
季語があくまで主役。
まだ三句目。
秋曇り注射六本終へし腰
【季語】 秋曇り(あきぐもり)
舞台はピット室だけではございません。
重量物であるタイヤを来る日も来る日も扱っていると、いつのまにか腰にダメージが蓄積してしまいます。
致命傷になる前に整形外科へ行き、腰にブロック注射を打ってもらいます。
「はい、打ちますよ」の「よ」のタイミングで喰い気味に刺さる注射の針。
なぜ、こんなにしてまで・・・どんよりと曇った秋の空のような心持ち。
診察台、うつ伏せ、半ケツ。
濡れ紅葉ジープの硬き足もとに
【季語】 紅葉(もみじ)
厳ついジープの武骨なてっちんホイール。
水たまりを通過したのか、露で濡れたか。
ぺたと張り付いた紅葉の葉っぱの可愛らしさ。
薄月夜タイヤの空ろなほ暗し
【季語】 薄月夜(うすづくよ)
繁忙期の最中でも深夜の急なパンクの出張依頼がきて、寝ているところをたたき起こされたりします。
雲に見え隠れするぼんやりした月明かりの下。
交換用の空タイヤをよーく見ていると、中央の空洞には吸い込まれそうな暗闇。
疲れで頭も空ろな状態、でも繁忙期特有のタイヤを見る研ぎ澄まされた感覚。
あさじみのつんとしてわれしゅんとせり
【季語】 朝凍(あさじみ)
深夜の次は早朝。
早めに出社して色々段取りしないと・・・そんなことを考えながら玄関のドアを開けた瞬間、外の冷気に思わず心が折れそうになります。
やる気に火をつけて、今日も頑張らないと。
石北の初雪纏ふ幌ウィング
【季語】 初雪(はつゆき)
「美笛吹雪けり」饒舌の運転手
【季語】 吹雪(ふぶき)
「峠に雪」の情報が聞こえ始めると、忙しさのフェーズが二段飛ばしぐらいに進みます。
今シーズン最初の雪に触れるのはいつも、真っ白になった車輌が来店したとき。
運転手さんは峠の雪の情報を明るく、そして仰々しく伝えてくれます。
誠にご苦労様でございます。
タイヤ屋と秋宵つなぐ車列かな
【季語】 秋宵(しゅうしょう)
最後は、タイヤショップにおけるこの時期の風物詩ともいえる光景。
普段は暇な当店も、この時ばかりはたくさんのお客様が来店し車の列ができます。
いつまでも終わらない作業と、あっという間に訪れる暮れの先の宵。
その一刹那。
今まさに燃え尽きようとしている茜色の空が心に染みて、癒しをくれます。
「タイヤ」という題材はわりと類想類句の罠に陥りやすく、季語との取り合わせの相性もあまりよくないように思います。
でも「繁忙期のタイヤ屋」という”ど真ん中の環境”で”当事者”としての視点で句作をすると、上記のような懸念から若干解放されます。
タイヤを通して季節を感じたり、季節を通してタイヤを見たり。
日々の労苦を客観視し、その中にかろやかな諧謔味を見つけられる気もします。
ささ、ということで休憩はおしまい。
ピットに戻って吟行、ではなく仕事してきまーす(^^)/!!
※「タイヤ屋さんの本日の一言」という沼ページでも時々果敢に詠んでます。